ぬくもり

あたたかくして寝よう。

飾る

私は以前、お付き合いしていた人に 「付き合う前の方がよかった」と言われたことがある。

当時はそんな言葉をかけられて、私は意味がわからなかった。互いの気持ちを確認し合って付き合う、となった以外に変化などなかったからだ。けれど彼にとってその変化は大きかったらしい。その根底に潜むものを、彼と別れて数年経った今になって分かった気がする。

 

彼とは昔からの知り合いで(といっても幼なじみではないのだが)、私と同じように絵を描くことが好きで、好きな曲もアニメも共通点が多くよく話をしていた。互いに好きなことを共有し合うのはとても楽しかった。

同じ学校に進み、2人で美術部に入った。

前々から仲が良かった私たちは、一緒にいる時間が増えたことで更に拍車をかけ親密になった。

学校が終わっても腐るほどメールのやり取りをしていたある日、彼から告白された。私は正直彼を"そういう目"で見たことはなかったが、二つ返事で承諾した。(思えばこの時の私の考えなしな返答が後々彼を苦しめたのだ。)

暫く、付き合ってからも特に変化なく過ごしていたが、ある日突然「付き合う前の方がよかった」と、あの言葉を言われたのだ。

私は付き合ってからも、前と変わったところなどないと思い、何故そう思うのか聞いた。すると彼は「なんていうか前はもっと、ずばずばしてたじゃん。なんかよそよそしくなったよね。」と言った。私には全くそんな気はなかったのだから心外だった。よそよそしくなったとはなんだろう……考えてもその時はどうしたらいいのか、どうしてそうなったのか皆目見当がつかなかった。

 

つい最近、「自分をさらけ出せるのは好きじゃない人の前だけ」という話を聞いた。好きな人の前では、相手を意識して自分を取り繕うけど、そうでない人の前では自由で、媚びないから魅力的に見えると。

私はきっと、彼とお付き合いを始めたことにより、彼をそういう目で見るようになって(自分が意識していなくても)自然と取り繕っていたのだろう。それが、彼からしたらよそよそしくなった と感じたのだろう。

 

愛的な好きな人、友として好きな人、嫌いな人……カテゴライズした周辺の人間に対する接し方は大きく違うのだと、今ならわかる。単純だけど、気がついていなかった。自分の態度は相手によって変わる。友として好きな人を、いきなりパートナーとして好きな人に移行させるのは難しい、と私は思う。私のような人間でなければ、一概にそうとも言えないのだろうけど。

兎に角、飾らない自分というのは、好きな人の前ではなかなか出せないというのが、ココ最近ようやっとわかった。